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銀と灰色の世界にささやかな黄金の青春を

PBW「シルバーレイン」及び「サイキックハーツ」用のキャラブログです。そっち自体の知識がないと読んでも意味わからないですごめんなさい。ここに住んでいるのは、稲田・琴音(b47252)、アリス・ワイズマン(b57734)、シンディ・ワイズマン(b60411)、睦月・絵里(b80917)、睦月・恵理(d00531)になります。
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04.18.15:30

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  • 04/18/15:30

11.29.11:14

「神様とヒーローと」


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今日はボクのSSらしいですね。何だかお恥ずカシイですが……。








背後さんより一言:実は元々予定のなかったものですが、MDでヒーローになった理由を聞かれて初めて思いつきました。その時の同席者の方々に多大なる感謝を捧げます。

なお、文中の言葉遣いが普段と違うのは、この時点ではまだどこかの素敵なコミックマスターさんのボクっ娘指導が入っておらず(普段のボク喋りは実はそのせい)、英文基準で書かれているので喋りが不自由にもなっていないためです。












「神様なんていないのに、毎週教会に通うなんてバカみたい。どうして行かなきゃならないのよ!」
「エリー、何てこと言うのよ!神様はいるんだよ!今のも聞いてらっしゃるんだよ?!」
「なら証明して見せなさいよ!無理でしょ、だっていないんだもの!」

アメリカの片田舎の道で、まだ幼い顔立ちの二人の少女が怒鳴りあっていた。

「うー……いるものはいるの!エリーのバカ!」
「ふん、子供じゃあるまいし。私もう行くから!」

片方の少女がぷいと顔を背けて道を歩き出す。もう片方は、悔しそうに唇を噛みながらそれを見送っていた。

「エリーのバカ……あんな事言って、罰が当たっちゃえばいいんだ!」

やがて、残ったアリスは小さくそう呟いた。

「はぁ、牧師さんにどう言おうかな……」

少し前の外出から帰って以来日曜の礼拝に出て来ないエリーを心配し、牧師が家が近くて仲のいい彼女を様子見にやったのだが、その結果はご覧の通り。いきなり喧嘩腰で迎えられ、かける言葉全てが冷たくあしらわれ、あげくあの暴言だ。

エリーはあんな子じゃなかった。いつだって親切で、それに頼りになる親友だったのだ。教会でだっていつもとても一生懸命に歌って、礼拝に来ている色んな人から愛されていた。アリスは悔し紛れに思い切り駆け出し、しばらく駆けてから足を止めた。

「いつものエリーと全然違ったもの……きっと何かあったんだ。わたしもバカって言っちゃったし、謝って仲直りしてみよう。汝の隣人を愛せよ、よね」

くるりと踵を返し、いつもの親友の顔を思い浮かべたその瞬間の事だった。何かがぞくっと背筋を走り、考えるより先に身体が勝手に再び駆け出していた。一気に走ってそろそろ息が上がって来ているのに、何故か休もうと言う気が起こらない。胸がぎゅうっと締め付けられ、喉の奥から何かがせり上がって来ていた。理由らしい理由があるわけでもなく、全く理不尽な事だった。ただ、今急いでエリーを見つけ出さなければ何か取り返しのつかない事が起きる気がしてならなかったのだ。

走っても走っても、彼女の姿は見当たらなかった。ほんの少し前に別れたきりなのに、ちっともさっきの場所の近くに見当たらない。折悪しく昼食の時間で、いつもなら畑に出ている人達もいない。途方に暮れかけながらも、アリスはひとつ息を吸って沸騰しそうな思考をぎりぎりと押さえつける。感情の制御力がこの年頃としても弱いが、追い詰められるとその感情は猛烈な力となって混乱ではなく思考の歯車を回し始める、それが彼女の特性だった。

さっきエリーを見つけたここは彼女の家に近い場所ではない。どうして彼女はここに来ていたのか?それがふと思考の表に浮かび上がった。その疑問には細い糸がついていて、すぐにもう一つの考えが浮かび上がって来る。

「! そうだ、ひょっとしたらエリーあそこに……!」

ずっと前に一度だけ教えてもらったエリーの大切な場所。悲しかったり悔しかったりする時に行くのだと少し恥ずかしそうに語ってくれた、綺麗な緑に囲まれた小さな泉のほとり。秘密の場所を訪ねる事は親友のアリスでさえまだ許してもらっていなかった……彼女にしては珍しい事であり、つまりよほどに大切な場所だったのだろう……が、どの辺りにあるか教えてもらってはいた。それはここからあまり遠くない場所のはずだった。見通しの良い田舎道からは遠くに林がいくつか見えていたが、そのどれかがそうかも知れない。

彼女は物凄く機嫌が悪そうだった。そして、そんな時にはよく行くと言う秘密の場所の方角にいた。……もちろん、あれから家に帰った可能性だってないわけじゃないが、道を歩いて家に帰っているなら悪い事は別に起きないだろう。道を外れさえしなければ、田舎と言っても人の目は十分あるのだ。むしろ、そうしてくれていれば妙な悪い予感を笑ってそれで済む。

「そうだ……いつだったか、オズへの道って言ってた」

他人の話をよく覚えて忘れない、それも彼女の特性だった。記憶を掘り返しながら地面をよく見ると、黄色いレンガの小さなかけらがまばらなタイルのように埋まっていた。それは不ぞろいで、いかにもエリーが一人での手製に見えた。ひとつ頷くと、アリスは黄色を辿って走り始めた。道を横切り、畑を越え、その道はやがて東に見えていた林の中へと彼女を誘って行った。

柔らかな土を蹴散らして木々の間を突っ切り、上り坂を越えると視界が開けた。透き通った水と白樺と木の葉、そして広がる空の色が一斉に鮮やかに目に飛び込んで、こんな時だと言うのに一瞬目を奪う。エリーにぴったりの、本当に素敵な場所。そう思いながら、彼女は数瞬その光景に見惚れていた。

「……いけない。エリー!ねえ、いるんでしょ?!」

走りに走って乱れた声をなお絞ってアリスは叫ぶ。しかし、周囲は景色に相応しく穏やかな静寂に包まれ、応える声は全くない。いないのかも、ちらりとそう思ったが嫌な動悸はなお胸から離れない。ゆっくり歩を進めながらあたりを見て回ると、視界の端に靴が片方転がっているのが引っかかった。

「!」

駆け寄って靴を拾い上げ、確かにエリーのものかどうか確かめてみる。望ましくないことに、それはやはり彼女のものだった。アリスはもう一度叫んだ。

「エリー!エリー、いるの?!お願い、返事してよぉ!」

彼女に何があったかは実際には判らない。だが、嫌な予感は膨らむ一方だった。
少なくとも池に落ちたわけではない。池の透明度が高く、池の底まで見通せるのでそれは見ればわかる。
となると、靴の片方だけをここに残して姿を消す理由と言うのは……?
悪い想像ばかりが頭の中にどんどん増えて行く。やがて、不意に今日の記憶が氷のように浮かび上がって来た。

『エリーのバカ……罰が当たっちゃえばいいんだ!』

自分自身の言葉が、百本の剣で切りつけられるよりなお強烈に少女を打ちのめした。そんな事あるはずがないのに。叶うわけがない。でも、そう。神様にかけてアリスはエリーを呪ったのだ。

「やだ、わたしがあんなこと言ったから……!?」

悪い言葉を人に向けて使ってはいけない。それは、やがて自分の身に帰って来ることになるのだから。父が何度も語った教えの意味を、彼女は今骨の髄まで思い知らされていた。神様がそんなひどい願いをかなえるはずはないけれど、悪魔を呼び込む隙にはなるかも知れない。今、悪魔が彼女の心の中でおぞましく哄笑していた。これはお前のせいだ、と。

「やだ、嫌だよ……神様、もう絶対にあんな悪い言葉を使ったりしません。どうかエリーを無事でいさせて下さい、お願いします。あの子をお護り下さい」

アリスは必死で祈りの言葉を紡いだ。そして、程なくその願いは聞き届けられた。ただし、神にではなく……

「神様なんていないわ」

ぞっとするような嬉しさに満ちた声が響くと共に、周囲の色がさっと塗り換わった。水の色は陰って果てしない闇へと暗く透き通り、白樺は寒々と温もりを隠し、木の葉は腐臭に満ちた病んだ緑色に脈打ち、空は不気味な紫色で息苦しく蓋をされた。

「え?!」

振り向けば、そこにはぼろぼろの服を着た婦人が一人佇んでいた。

「あ、アリス?!」

そして、背後には服のあちこちにかぎ裂きを作り、所かまわず痛々しい擦り傷や引っかき傷だらけのエリーが息も荒くへたり込んでいた。アリスが来るまでにずいぶんと酷い目に遭わされたのだろう。

「神様はどんなに呼んでも助けてくれなかった……そして、ここにずっと埋まり続けていても気づいてくれなかった。だから私は神様なんて信じないわ。あなた達もすぐにそうなるの……ふふ」

ささやきながら、婦人はことさらゆっくりと二人に近づいて来る。じりじり下がりながら、アリスはふと直感した。寒気のするような笑顔を浮かべたその婦人は彼女もエリーも殺すつもりだと。しかも、多分ひどく残忍に。その感情が何だかは知らず、だが彼女のまだ目覚めぬ力の片鱗は叩きつけるような殺気と妬みとを鋭く感じ取っていた。

「このぉっ!」

足元の石を素早く拾い、投げつける。婦人は顔に飛んで来たそれを苦もなく払いのけた。しかし、気にすることなく石を次々投げつけながらアリスは駆け出した。それを見て、婦人の笑みが一際深くなった。始まりはどうあれ、今はもうすっかり歪んでしまっている彼女にとっては、抵抗する獲物の方が絶望させ甲斐があるのだから。

「追いつけるもんなら追いついてみなさいよ!神様が来てくれるまで逃げ切ってやるから!」

自棄のように叫んでみせつつ、彼女はどんどん下がって行く。エリーがへたり込んでいる樹の根元から遠く、遠くへと。

(……わたしのせいだもの。神様の名前で呪いをかけたりしたバチなんだ!)

やがて、遠ざかって行く彼女の意図に気づいてエリーが叫ぶ。

「アリスっ!」

声を出されてしまえばもう注意を引きつけてはいられない。アリスは自棄の仮面を脱ぎ捨て、叫び返した。

「逃げてエリー!この人、わたし達を殺す気だよ!わたしなら大丈夫、簡単に捕まったりしないから!」

婦人ははっと気づいて背後遠くとなったエリーを振り返り……そして、にいっと笑った。これこそ最高の無駄なあがきだ。だって、いくら走ってもこの空間からは逃げられないことを、彼女だけは知っているのだから。そう、「特殊空間」からは普通の方法では逃げられないのだ。彼女に石を投げ続ける少女は哀れにもその事を知らない。ねじけた心はその事に最高の興を覚え、ほくそ笑んで少女のたわいもない挑発に乗った。そのつもりならいつでも追いつけるのに、速度を緩め、恐怖を煽るようにじっくりと追い始めた。

「はっ、はっ、はっ……!」

生者の足には限界と言うものがある。特殊空間に辿り着く前からずっと酷使され続けている筋肉が悲鳴を上げ始めていた。アリスのスタミナや素早さは普通の子供の中では群を抜いてはいたが、掛け値なしに全身全霊でもう三十分以上は駆け続けている。そして、うち半分は背後から迫る確実な死に追われ、時に弄ぶように足を掠めては飛びすぎて行く何かに狙われながらだ。ほぼ精神だけで肉体を律してはいたが、それがもう続かないのを絶望と共に彼女は感じていた。

「あっ……!」

張り出した樹の根に足を取られ、身体が放り出された。

「くっ……うぅ!」

起き上がろうともがくが、一度動きを止めてしまえば今までの反動は一気に押し寄せ、足はがくがく震えて全く言うことを聞いてくれない。そんな彼女を嘲笑うように、先の婦人はじわじわと近づいて来る。

「ほら、助からなかった」

アリスの傍らで足を止め、冷たく見下ろしながら婦人は囁く。

「すぐにお友達も仲間にしてあげる……ここからは誰も逃げ出せないのだから」

繊細なのに何故かひどく禍々しく感じるその右手がすっと振り上げられ……その瞬間、アリスの心の中でぱっと火が燃え上がった。やられっぱなしで、このまま何もせず思い通りにされるなんて嫌だと。

「Hear me, you chicken!」

言う事を聞かない身体を激しく叱咤し、膝と筋肉の継ぎ目を思い切り殴りつける。激痛と共に脱力感が一瞬消えたその瞬間、彼女は最後の力の全てを振り絞って跳ね、振り下ろされた腕の内側をくぐり、思い切り身体ごと飛び込んで行った。鈍い音と共に頭がじんと痛み、予想もしない反撃のショックに婦人が顔をおさえてよろめいた。

「つ……神は自ら助くる者を助く、よ!」

無理矢理覚醒させられた足は、今度こそ活動を放棄してがくりと折れた。逃げることは出来ず、今ので相手の怒りは増した。この後の結末はたった一つしかあり得ない。しかし、それを悟りながら僅か八歳のはずのアリスの顔には何とも不敵な笑みが浮かんでいた。

次の瞬間、その腹部に鈍い衝撃と灼熱が広がった。視認できないほど速く鋭く婦人の手が伸び、彼女の腹部をまっすぐ貫いていた。目の前が白くちかちか光り、口から血が迸って息が詰まる。そのまま腕一本でアリスの身体は軽々持ち上げられ、数瞬遅れてやって来た激痛が、窒息が意識を掻き乱した。咳き込む彼女を満足げに見ながら、婦人は更に左腕を振り上げた。

(そうだ……最後まで頑張れるだけ頑張りましたって、神様に言わなきゃ。それに、きっとシンディなら言う……)

婦人の表情はすぐ近くではっきりと見て取れた、何故なら身体が婦人の頭の高さまで持ち上げられているのだから。……つまり、手がすぐ届く距離なのだ。

「こんなものじゃ……ない!」

魂が肉体を凌駕し、激痛に意識を半分がたなくしたままにアリスの右腕が振り抜かれた。再び鈍い音が響き、仕留めたはずの獲物から二度目の反撃を受けた婦人の顔にはっきりと憤怒の相が浮かんだ。それと共に、苦痛の相もまた。死に瀕して能力者の力を覚醒させ始めたその拳は、小さくとも常人のものではなかったのだ。

もちろん、それで勝ち目が生まれるわけではなかった。小さな身体が大きく振られ、次の瞬間地面に骨も砕けよとばかりに叩きつけられた。ばきり、めきりと身体中で嫌な音が響く。今度こそ、もう起き上がれない。それどころか溢れる血で息が詰まり、強過ぎる痛みが感覚を麻痺させ、もはや指一本とて動かせず死を待つばかりの有様だった。

視界も段々暗くなって行く。婦人がおぞましい狂声を上げながら三度手を振り上げるのがぼんやりと見える。今までの遊び半分とは違う、手加減抜きの一撃が今度こそ来るだろう。

「……めん……ね、エリ……」

ごぼごぼと水音をさせながら、どんどん深まる暗闇に落ちながら最後にアリスは呟いた。もちろんそんな言葉に哀れを誘われることなどなく、婦人の腕は振り下ろされ……そして、白く輝く小さな人影が飛び込んでがっしりとそれを掴み止めた。人影の手元でそのまま婦人の手がばきりと折れ、遠い聴覚にもはっきりと悲鳴が響き渡る。きらめく何かがぱっと舞い、それは人影の頭上を光輪のように漂った。

(ああ……やっぱり神様はいるんだ。天使様が来てくださったよ、エリー……)

「お話通りだね……きれいな羽だなあ……」

微笑みながら、アリスはゆっくりと目を閉じた。もう、どうしようもない位まぶたが重過ぎた。手放された意識が指の間から深くへ、深くへと、ことんと静かな音を立てて落ちて行った。

 


「あんたの悲しみはさぞ深いのだろうけど、それはあたしの大事な妹に手をかける理由にはならないわ。絶対に許さない」

怒りに満ちた声と共に吹雪が巻き起こる。

「父さんが、母さんがいなくったって、妹の前じゃ負けないわよ……あたしはお姉さんなんだから!」

 

 


目を覚ますと、そこには見慣れない真っ白な天井があった。視線を動かすと、まず花瓶に活けられた桃色の花が目に止まった。アリスはにっこり微笑んだ。とても綺麗だと。そちらを向きながら起き上がろうとすると、鋭くも温かな叫びが後ろから聞こえた。

「アリスっ!」

「……シンディ?」

何だか重い身体を転がして向きを変えると、そこには呆然とした表情の姉が座っていた。めったに見ない姉のそんな表情にアリスが戸惑ってじっと見つめていると、不意にそれが怒りの表情に変わる。

「ようやく起きたのか、この馬鹿妹!お姉さんに心配をかけるとは何事よ、阿呆、スカタン、間抜け、ろくでなし、とんま、へちゃむくれのアライグマ!」

ぽんぽんと罵り言葉が飛び出して来た。シンディはこの手の言葉のボキャブラリーが中々に豊かだ。何せ、近所では男の子を取っ組み合いで捻じ伏せてガキ大将をしている位のお転婆なのだから。

「え、わたし一体……あっ!」

慌てて身を起こそうとすると、ぎしりと身体が痛んだ。そして、その痛みが一気に記憶を呼び起こした。

「エリーは?!ねえシンディ、エリーは大丈夫なの?!」

痛みも気にせずがばりと跳ね起きた途端、アリスの額をきつめのでこピンが襲った。

「いいから落ち着きなさい、このBlockhead。彼女なら心配いらないわよ、あんたが寝てる間にとっくに元気になったわ。むしろあんたの事を心配してる。大怪我したのはあんたの方なんだから」

「え?あ、そうだ。わたしすごい怪我したんだっけ……あれ?」

怪我の場面が脳裏に甦る。どう考えても、身体が軋むとかそういうレベルで済む怪我ではなかったはずだが……もしかして、いつか見た映画みたいに自分は十年以上も眠り続けていたとか言うのだろうか。そう考えつつ身体のあちこちを触ってみると、鈍い痛みはあったが取りあえず異常はなさそうだった。身体はどこも自由に動くようだし、おなかに大穴も開いていない。

「考えてる事の想像は何となくつくから言っておくけど。あれからまだ四日よ。で、あんたは確かに死ぬほどの大怪我をしたの」

「……えっ?」

不意に表情を冷たく厳しくして、シンディが更に口を開きかけた。その時、こんこんとドアがノックされた。

「あの……シンディさん、まだおられますか?エリーです」

低められた声が外からかけられる。シンディは口にしかけた言葉を打ち切り、さっさと立ち上がった。

「少し話させてあげる。その後で父さんと母さんと看護婦さん呼ぶから。……ああ、エリーさんどうぞ。あたしはちょっと休んできますからごゆっくり」

後半は別人のように猫をかぶってみせながら、シンディはするりと退出して行った。入れ替わりにエリーが入って来て、アリスが身を起こしているのを見てぱっと顔を輝かせた。

「アリス、目が覚めたんだねっ!」

数秒の硬直。そして、涙がぽろりとあふれ出した。

「よかった……よかった、アリス……二日間も見つからなくって、見つかったらあちこち打ち身だらけで意識不明って……ねえ、私覚えてるよ!ぼんやりしてるんだけど、あなたが私を命がけで守ってくれたこと、覚えてるの……ごめんね、ごめんね!」

泣きながら抱きつくエリーに、アリスはこわばった身体で抱きつき返した。

「ううん、謝るのはわたし。あの時、エリーにバチが当たっちゃえばいいなんて言ったから酷いことになったの……ごめん、エリー」

「違うよ、それにあの時のだって私が悪いの!お父さんとお母さんが離婚するかもって……それで神様って聞いたら、ずっとお祈りしてるのにって八つ当たりしちゃって。バチが当たったのは私によ!」

エリーの叫びを聞いて、アリスは花の咲いたような笑顔を浮かべた。

「そっか、やっぱり。いつものエリーは凄くいい子だもん、あんな酷いこと言うわけなかったんだ。……ね、わたしのお父さんとお母さんと牧師さんに相談してみようよ。何とかしてくれるかも。まず何かしてみなくちゃ」

アリスの両親はこの辺りでは名の知られた名物夫婦で、ちょっとした取りまとめ役だ。エリーの両親とも仲がいい。何とかしてくれるかも知れない。それに……。

「ね、そうしよう。きっと大丈夫、神様は見ていて下さるんだよ。だって、わたしは天使様に助けられたんだから!」

部屋の外で、何故かひとつため息が聞こえた。

 

 

 

……その後は、もはや事件については語るほどの事はほとんど残っていない。あるいは、きちんと語るには別の物語が必要となるため割愛する。結局のところ、徹底的に話し合ってみると人間意外と何とかなるもので、エリーの両親は離婚せずに済んだ。また、林の中で埋まっていた女性の白骨死体が発見され、捜査の末犯人が捕らえられて相応の報いを受けることになった。

それからアリスは自分の中に目覚めた力を知り、既に目覚めていた両親やシンディと共に(全員一緒だったのはごく短い間だが)能力者の道を歩み始めることとなる。家族に覚悟を問われた時、アリスはこう答えたのだった。

「あれから何度も考えたの。神様はちゃんと見ていて下さるのに、世の中にはたくさん悲しいことがある。それはきっと、わたし達が多すぎて神様だって忙しすぎて全部手が回らないからなんだと思うの。この力、スーパーマンみたいに自分の意思で使えるでしょ?なら、わたしはこの力であの時の天使様みたいに誰かに希望を与えられるヒーローになって、少しでも神様のお手伝いをしたいの」

とても危うい答えだ、その時シンディはそう思ったと言う。そして、自らの力がもう少し見栄えの悪いものでなかったことを呪った。そう、天使と見間違われないで済むような。……だが、同時にこの心配でならない単純な妹をそれだからこそ愛しく思った。ひょっとしたら両親がそう思うよりもなお強く。だから彼女は、やがて自分の力についてより深く学ぶために、雪女の伝承が残ると言う日本へと旅立って行くことになる。どれだけ大きな運命がその地に待ち受けているのか、まだ何も知らぬままに……。

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