銀と灰色の世界にささやかな黄金の青春を

• 04/27/17:09

もうすぐ私たちも中学生。小学生の上に立つ身になるんですから、いつまでもお正月気分を見せてはいられません。今日は気を引き締めるため、早めにお昼を済ませた後頂き物のスポーツウェアに着替えて、裏の林で持参のゴムチューブを使ってトレーニング開始です。本当は弓を使えれば一番いいのですが、部活でもないのに持ち歩くわけにも……。

もぐもぐ……林には常緑樹があって、葉っぱが冬でも食べられるのが素敵ですね。
まずは、準備体操。時間がなくてもこれだけは念入りに。準備運動なしのトレーニングは百害あって一利なし。体を壊します。お祖母様にも、自分の体は何か起きた時に備えていつでも健康に保っておきなさいとよく言われたものです。

１０分くらいかけて準備運動をしてしまうと、予鈴まで後２５分ほどしか残っていません。その時間で、チューブを両手に張りながらとにかく何度も弓を引く動きを繰り返します。これでも土蜘蛛様の巫女、破魔矢を実戦で何回射っても腕が疲れないように。

視線は常に今までの対ゴースト経験で生み出した想像の的から外さず、その間周りを見失わないように全身をセンサーにしながら、腰の動きと、時には歩法も使って的を追い、何度も何度も矢を放ちます。時々は、引いたまましばらく固定し続けてもみます。

腕の筋肉が疲れたと思っても、甘やかさなければけっこう動いてくれるものです。本当にチューブを引ききれなくなるまでは繰り返します。筋肉よりも、精神に言うことを聞かせるのが難しい。寒くて澄んだ空気のにおいと私の動きで巻き上がる土の香り、そして葉の落ちた立ち木の寂しげだけれど静かな枝音がつい心を和ませてしまいそうになります。あくまで想像するのは実際の依頼、好きな匂いや音に気を取られているようではいけません。

途中で上半身と下半身のトレーニングバランスが崩れていると気づき、ランニングしながら的を狙うようにしてみました。さすがにぶれるぶれる……馬を駆けさせながら標的をとらえていた古代の武士たちは、どんなにか凄かったんでしょうね。

１０分それを繰り返したら、残り時間のうち５分を終わり支度にあて、１０分を整理運動に使います。しっかり筋肉をほぐしておかないと、固まった筋肉ばかりついてしまってせっかくのトレーニングも台無しです。このあたりは、お祖母様から丁寧に教わったものです……私に蟲を、能力者の真実を継がせることは亡くなる間際で決心されたようですけど、備えだけはしておられたのでしょう。小さい頃から、お話に交えて古伝の智慧を、儀礼を教えて頂く合間を見ていくらか武術のたしなみを教えて下さいました。

……今思い返すと、そのつもりなら私をもっと厳しく仕込んでも良かったのでしょうね。お祖母様は最後に私に向けて、「ごめんね」と呟いておられましたが……ゴーストと関わる人生に私を送り出したくはなかったのでしょう。そのお気持ちが、今もとても嬉しくて、ちょっとだけ悲しいのです。最後まで気に病むことなんてなかったはずなんです。だって、私は満足してしますから。

っと、どうも湿っぽくていけませんね。もう何ヶ月も前のことなのに、これではお祖母様に怒られてしまいます。さて、整理運動も終わりましたし、そろそろ教室に帰りましょう。午後のお勉強が待っています。体をふいて着替えないといけません。ちょっと頑張ったので、午後の授業は眠くなりそうですが……我慢ですね。って、あ。こら、私たち、眠いからってこんなところで繭糸吐いちゃダメ。ああもう、口の中が糸だらけに……。

• 01/09/12:14
• 琴音
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