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04.05.10:20 聖杯戦争・祝賀の夜(日本語吹き替えver) |
苦しかった、そして悲しみの大きかった聖杯戦争は終わりました。取り戻された聖杯で、世界結界の修復がうまく行けばいいのですけど……でも、聖杯の代償がまだ判らないのが私には少し怖く思えます。
……済みません。暗い想像ばかりしていても仕方がありませんよね。まずは、この勝利を祝い、感謝しましょう。
「Alice」
静かにかけられた声に、ベランダの黒い影がのろのろと顔を上げた。
「……Cyndi」
丑三つ時の影に隠れたその表情をじっと見通し、シンディは一つため息をついた。
「外、まだ寒いのよ」
「……わかってる」
「寝ないの?」
「…………ん」
黙ってうなずく強情な妹の横顔をただ見つめ、シンディは苛立たしげに言った。
「馬鹿ね」
静かに頷いて、アリスは話し始めた。口がひどく乾くかのように、何度も唾を飲み込みながら。
「……姉さんが言い出してくれるより先に、わたしは決断してたの」
「知ってるわ、とっくに」
「わたしは、人がまだ希望を繋ぎ続けられる未来を望んだの」
「それも知ってる」
「でも、そのために見捨てられる人にとっては、世界が失われるのと変わらない。わたしが友達の命と別の誰かの命を秤にかけた裏切りは消えないの」
シンディは、実際には悪い事は回避されたのにと言いたくてたまらなかった。また、どちらも理性と感情それぞれにおいて自然で動かしがたい選択であったのだとも。しかし、それが無駄だと言う事は7歳の頃にはもう知っていた。
「……だから、ね。もう少しだけでいいの、立つまでに時間が欲しい」
いっそ、罪悪感に浸ってくじけてくれるならここまで妹を心配しなくて済むだろう。……だが、そうだったらここまで妹を愛する事もなかっただろう。罪悪感をしっかり感じているくせに、この妹は瞳から希望の炎を消そうとしないのだ。
止まるのはゼロでしかなく、歩き続けていれば何かが出来る。理想がどんなに遠くであっても、どんなにゆっくり歩くのでも、その分いつまでも歩き続ければいつかは辿り着くのだ。だから、辿り着けない理想など絶対にない。理想に辿り着きたいなら、座りこんでいてはいけない。
……それはずっと変わらない、とても厄介なアリスの信念だ。馬鹿げている。馬鹿げすぎて、その輝きが愛しくてたまらなくなる。
「勝手にしなさい。私も勝手にここにいるから、好きなだけ星を見たら顔を洗って寝なさい。寝不足でしょぼくれた顔じゃ、それこそ誰の勇気も灯せやしないんだから」
「ふふ……thanks」
アリスの目から、闇の中にひと筋銀の輝きが生まれた。
ヒーローを目指すならば弱みは見せてはいけない。その背中が雄々しくなければ、ヒーローを仰ぐものに理想への憧れが起こらなくなる。希望の灯火を増やして行くことが出来なくなる。
……でも、こんな夜の中なら、誰にも見えない。生まれた時からずっと一緒の姉には、どうしても気が緩んでしまう。ついに堪えきれず、アリスは涙をもうひと筋だけこぼした。
あくまで胸を張ったまま、表情は変えぬまま。見せてしまった弱みからは、すぐに立ち直らなければいけないのだから。肩を、背中を借りることがあっても、けしてそれに甘えてはいけない。孤高でも、頼り切りでも人は未来を繋げないのだから。
姉は、そんな妹をただ静かに見つめ続けていた。星が暁の光に溶け、やがて太陽が世を照らすまで。そして、その太陽のような笑顔が妹に戻るまで。
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