01.22.20:13 [PR] |
08.14.10:31 ちょっと作中の時期を逃してしまいましたけど |
今回はお盆のSSです。実はこれに参加していた、を望む奇特な方は私にご連絡下さい、また何か書くかも知れません。なお、クリュ姉様への遅れながらのお誕生日プレゼントでもあります。私としたことが、よりによって姉様の誕生日当日を逃してしまうとは……全く不覚でした。
拙いものですが、どうぞ姉様、お受け取り下さいませ。
「姉様、ごめんなさい。すっかり手伝わせてしまいまして」
河のほとりに静かに佇み、琴音は傍らのクリューナ夢衣に話しかけた。彼女は、琴音と共に河のほとりの道を掃き清めていた。最後のひと掃きをして道をきれいに整えながら、彼女は答えた。
「送り出すのも迎えられるのも、綺麗な方がいいはずだよ」
「……そうですね。二人ぶん丁寧にお送りしましょう」
琴音が視線を向けた先には、二人で曳いてきた台車と、その上に載せられてた数十の笹船があった。
「……その場にはいられませんでしたから、せめてこれくらいはしっかりしておきたかったんですよ」
どこか悲しげな瞳で呟き、彼女は笹船のひとつを取り上げ、載せてあった蜜蝋の蝋燭に火を点して河に浮かべた。それに倣って、クリューナ夢衣もまた米粒がちょんと盛られた笹船を河に浮かべる。
ふたつの船は、河の流れに載ってゆったりと遠ざかり始めた。それをじっと見送り、やがて二人はまた次の船をとって河に浮かべた。
笹船に載せられているものは様々だった。どれも船のサイズに合わせて小さく丁寧に拵えられた、食物だったり、蝋燭だったり、絹布の晴れ着だったり、今は常世に住まう者達の勇気と誇り高さを称え慰める祈祷文だったり、常世の司に勇者達の冥福を願う書状だったり、堂々とした旗だったり……どれも、此岸に帰り、今また彼岸へ戻って行く霊たちへの想いのこもった贈り物ばかりだ。
それらは、この日本の昼日中に起きながら普通の人々には知られることのない「土蜘蛛戦争」で亡くなった者達への送り火と、常世での暮らしへの捧げ物。
土蜘蛛に仕える為の家系に生まれながら土蜘蛛の運命の分け目となったその戦争に参加出来なかった琴音からの、主人達への、そして先輩や後輩や同級生だったかも知れない学生達へのせめてもの心づくしだった。
二人が見送る中、舟は現世への名残りを惜しむかのようにゆっくりとゆっくりと、そして揺らぎひとつなく穏やかに、河口の先の海を目指して流れて行く。
最後の舟の蝋燭の灯りがまさに見えなくなろうとしたその時、琴音は目を閉じて静かに口を開いた。
「例え後に悲しい結果があったとしても、あなた方の誇りと志には何ひとつ曇りはなかったと私は信じています。及ばずながらその欠片なりと頂いて、せめて彼岸からの目に恥じることなく歩んで行きます……此岸のことはお任せ下さい。そして、どうか安らかにお休み下さい」
傍らのクリューナ夢衣が、そっと琴音の肩に手を置いた。そのとても優しい感触に、琴音は目を開く。
「……ねえ、見て」
彼女の指差した先に、琴音は視線を向けた。すると、気のせいかも知れないが、見えなくなっていく灯りがちらちらと、風もないのに左右に揺らめいていた。それはまるで、生者に手を振って別れを告げているかのようだった。
二人は、そのまましばらく身じろぎひとつすることなく、いっそう静かに暗さを増した夜の中でただ佇んでいた……。
誕生日のプレゼント、ありがとう(微笑
2009年08月14日金
少しでも気分よくお盆を迎えてもらえたらならいいよね。
お疲れ様、琴音。
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