11.21.21:14 [PR] |
07.28.21:21 台所にて |
とんとんとん。今日もまた包丁の音がリズミカルに響く。
胡麻をすって鰹出しと梅酢と共にビンに詰め、夏野菜を低温でじっくり蒸してしゃっきりとしたまま中まで火を通しあるいは糀でさっぱり漬け、合挽肉を朝掘りの葱や胡桃と合わせて肉団子にし、もずくは三杯酢を合わせてラップをかけたボウルに。ただし、量は少なく消化に負担をかけ過ぎないように。
「後は水分もいるわね……」
一人呟きながら、琴音はてきぱきと忙しく台所を動き回る。麦粒を炒って袋に詰め、汲んで来た近場の湧き水で麦茶を淹れる。
作られたものは次々タッパーに詰められ、あるいはボウルごと風呂敷に包まれ、大きな竹編みの籠に詰められて行く。
「白児さん、ちゃんと寝ているといいんだけど……」
荷物をまとめると、琴音はまず仏壇の前に座って手を合わせた。長い供養の祈祷文をそらで唱え、それから今も敬愛し続ける亡き祖母にただ一言祈った。
「どうか今日もお見守り下さい」
最後に、しっかり戸締りを確認して、同居人に後のことを頼んで彼女は部屋を出た。少しでも力のつく食事を、寝込んでいる想い人に届けるために。……そして、監視するために。何ぶん、他人が心配するから、と自分が無茶をしかねない性格なのだ。目を離すと治りきらない内に床を上げかねない。
「もし、そんなことをしてたら……」
むん、と彼女はひときわ力をこめて重い竹篭を持ち直したのだった。
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