11.21.17:33 [PR] |
07.16.10:03 今回はSSを |
今回は、リンク先「土蜘蛛の巣」記載のSS「絆の日」シリーズから着想を得て書いたものですので、まずそちらを先にお読み下さい。現在進行中のお盆とそれが結びついた結果、このようなものが出来上がりました。
なお、公開許可は頂いてあります。また、キャラを崩さないよう、終盤部分は本人のご協力をあおいだのですが……そうしたら文章を頂けました♪どうもありがとうございました!
それは、7月12日の、月がとても綺麗な晩のことだった。迎え火と留守参りを済ませた琴音がいつも通り平賀家の門をくぐり、玄関へと歩み出した時、ふと何かが体を走り抜けた。
直観の導くまま庭の一角に目を向けると、淡く光る人間大の何かが見えた。手には既に神速でイグニッションカードを準備し、彼女は油断なくその何かの正体を見極めようと目を凝らした。
蛍のような輝きの向こうに見えるその何かは、どうも平安朝くらいの衣服をまとった人かそれに近いモノのように見えた。いつも通りいくつもの人・来訪者問わぬ彩り豊かな客の声と灯りとが漏れ出している居間を、その何かは立ち尽くしたままじっと見つめていた。
それは、おそらく生物ではなかった。生物にしてはあまりに実在感が薄過ぎた。だが、ゴーストでもなさそうだった。少なくとも琴音に探れる限りでは、馴染みきった残留思念や詠唱銀の気配が全く感じられないのだ。
つまり、それは正体の判らないものだった。正体の判らないものが自らの主万葉の屋敷に入り込み、主のおわす部屋を探っている……!カードの解封の呪と、誰何と警告の鋭い叫びとを同時に上げようとしたその瞬間、不意に琴音は動きを止めた。その何かがふと浮かべた表情を見とがめたからだ。彼女は直観で悟った、これは主の敵ではないと。
浮かんだのは何とも愉快そうな、そしてどこか悔しげな苦笑。楽しげな苦笑、と言うのもおかしな言葉だがそれ以外に表現のしようがない表情だった。
何故か、その表情は強く琴音の胸を打った。同時にこれも何故か、脳裏を雷鳴の如く双葉の眼差しがよぎった。それらに突き動かされるようにその光る何かに声をかけようとした瞬間……すうっとそれは消えた。
慌てて駆け寄り周囲を探してみるが、詠唱銀のかけらとて見つからない。白燐の光を供にしばらく探しに探していると、それを見とがめたか玄関から声がかかった。
「そこにいるのは稲田かい?」
かけられた主の声に、琴音ははっと顔を上げた。
「あ、万葉先輩。今、ここに奇妙なものが……」
「ふむ?」
今見かけた怪しいものの話をすると、万葉は興味深げに目を細め笑みを浮かべた。そして、そのものの外見について更に詳しく話をするにつれてどんどん笑みは深くなっていった。
「まあ、稲田が敵ではないと言うのなら敵ではないのだろう。判らないモノは面白い。様子を見ようじゃないか」
それだけ言うと彼女は中に戻って行った。
「離れて見守るだけとはつれないねえ」
そして、呟いた言葉は琴音の耳には届かない。
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