02.02.17:07 [PR] |
11.20.00:37 連れ立つカルガモ |
万葉先輩の所の蜘蛛童が、とうとう土蜘蛛様となりました。本当にめでたいことで……ついては、嬉しさのあまりに即興で書いてしまったSSを、本人の後ろの保護者さんのご許可の下公開させて頂こうと思います。拙文ですが、お付き合い頂ける方はどうぞお読み下さいませ。
「あの、琴音ねえさま。これで本当におかしくないでしょうか……?」
「もう三度目ですよ、それを聞くのは」
くすくす笑いながら琴音は満葉の頭を優しく撫でてやった。
今日は初の登校日、出来るだけ身支度は自分でやってみようとする満葉を、琴音は本当に手助けだけしてあげた。そして、実際制服の着こなしから髪の整え具合から、保護者の欲目を抜きにしてもなかなかにきちんと仕上がったのだが……、
(公の場に出ると言うことはいわば名代!少しの乱れがお家の恥に!……と言うような事を考えているのでしょうね、たぶん)
見るからに気合の入った満葉の横顔を見て、琴音は必死に笑いを堪えていた。
それでも多少の笑いが洩れてしまうくらいは仕方あるまい、あまりに微笑まし過ぎるのだから。
……まあそれに、自分を見ているようだからと言うのもある。
実際、万葉などは前の晩にわざとらしく二人を見比べて笑いっぱなしだったものだ。
「ほら、肩に力が入り過ぎていますよ」
そっと肩を叩いてやれば、
「は、はいっ!」
やはりと言うか何と言うか、かちかちとしゃちほこばる。何か言えば言うだけ薮蛇のようだった。
そして、琴音が初めて祖母の跡継ぎとして祭儀の場に出された時もこんな感じだった。
「ずいぶん長い身支度だったねえ?」
思わず苦笑いしかけて気が緩んだその瞬間に素晴らしいタイミングで声がかけられて、琴音は出そうとした言葉を飲み込まされて目を白黒させた。縁側に座り待っていたのは彼女の主、そしてその傍らにはその妹が黙然と立っていた。
主の何とはなしに意味深な笑顔は、まるで自分を思い返していた思考を全て読み取っていたかのようで、琴音は重ねて目を白黒させずにおられなかった。そんな様子に、主はまた愉快げににんまりと笑う。
「も、申し訳ありません!私がその、手間取りまして……」
弾かれたように頭を下げる満葉の声でようやく呼吸を取り戻し、その背をとんと叩いて琴音は口を開いた。
「準備万端、整いました。二人目の妹様の初の外出と人間の社会の勉強には、人間の私も土蜘蛛の先達たる双葉先輩もついて参ります故ご心配には及びません」
肴にばかりはならぬとばかり、形式ばった口上を更に少しばかり大袈裟に、それっぽく述べてやると、万葉はさも楽しげにくすくす笑い声を立てた。
「……私をあてにされても困るけれど」
いつも通りの気のなさげな物言いで、双葉が言葉を挟んだ。もっとも、気のなさげなとは言うものの、いつもと違う状況にどこか動きが違うのは見て取れる。
何より、反応を返すこと自体が気にかけていると言うことだ。どうでもいい相手の事なら、双葉は口を開く手間もかけはしない。つまりは、そう言うことなのだ。
微笑む琴音の内心を何とはなしに感じ取ったのか、双葉は微妙に不満げな表情で早々と戸に手をかけた。
「……そんな事より、遅刻するわよ」
「そうですね、それでは出ましょうか」
満葉を促し、琴音は玄関を降りた。横では、満葉も一生懸命に、そう、何とも一生懸命に靴を履いていた。
そして、立ち上がると彼女はくるりと万葉の方へと向き直る。
「そ、それではっ、満葉はけして平賀の名に恥じぬよう、及ばずながら……!」
息を大きく吸い、顔を真っ赤にして述べようとする、小さくもぴんと伸びたその背を琴音は再び優しく叩いてやった。
「こんな時にはね、これだけで良いのですよ。この場に一番ふさわしいのですから」
何事か囁かれて、満葉はこくりと頷き、もう一度息を吸い込む。
「……それでは、行って参りますっ!」
「くすくす……ああ、行ってらっしゃい」
答えた万葉の笑い声は、今朝はひときわ愉快そうだった。
- トラックバックURLはこちら